すごく順調に進んだヒラアシクサアリの初期寄生
例年5~7月はクサアリの仲間の結婚飛行の時期だ。
今年はクサアリについて少し詳しく見ていきたいという願望を持っていた僕はクサアリの女王を見ると必ず腹柄節を確認し、種の判別を試みることにしている。
それ程頻繁にフィールド観察に出掛けられていないということもあり、今年の成果は今のところクロクサアリの脱翅雌が1匹、残りは数十匹に及ぶヒラアシクサアリのオンパレードだった。。
我が家では今年の始めまで飼育していたヒラアシクサアリが滅亡してしまっていた為、新しいヒラアシクサアリ女王を数匹持ち帰り新たに飼育を始めてみることにした。
ヒラアシクサアリはケアリの仲間に一時的社会寄生を行う寄生種だ。
ヒラアシクサアリが寄生する相手は飼育者にとって最も入手しやすいトビイロケアリであることから、寄生種の中でも最も飼育をチャレンジしやすいアリと言えるだろう。
寄生の方法はヒラアシクサアリの新女王にまず数匹のトビイロケアリワーカーを同居させ馴染ませる。
同居が出来たら以降のトビイロケアリ導入は成虫のワーカーではなく繭を入れる。成虫はヒラアシクサアリに対して攻撃的な行動をとる可能性が高く、導入後に繭から羽化した新しいワーカーは攻撃をすることがほぼ無いからだ。
今回ヒラアシクサアリを含めたケアリ寄生種を飼育するにあたり、以前からしていた準備があった。
それは「予めトビイロケアリを飼育しておく」ことだ。
ケアリ寄生種の寄生は必要なものさえ揃えれば比較的成功する確率が高い。ただ、いざケアリ寄生種の新女王を見つけた時に都合よくそれらが揃えられるかと言えばそう簡単にいかないことが多い。
その"必要なもの"こそ、「トビイロケアリの繭」である。
我が家では2020年の冬に枯枝内で単独で越冬していたトビイロケアリを採集して飼育していた。最初はあまりうまくいっていなかったが、2022年頃から良い流れに乗り始めて爆増。2023年現在では恐らく1000匹を越えている大きなコロニーとなっている。
このトビイロケアリコロニーの飼育巣内に、採っても採りきれない程の繭があったことで、今年採集したヒラアシクサアリ女王1匹に対し100個以上の繭を簡単に導入することが出来た。繭を確保出来ていたから最初に寄生させた成虫のワーカーもわずか3~4匹程。後は全て繭の導入で賄った。
繭の羽化は最初に導入した数匹のワーカーが全て行う。無理そうに感じるかもしれないが繭は全て同時に羽化するわけでは無いから1匹、また1匹とワーカーが羽化すれば繭を羽化させる成虫のワーカーの数はねずみ算式に増え、ほぼ全ての繭は問題なく羽化を終えるのだ。
トビイロケアリの羽化の大半が済んだ時、ヒラアシクサアリ新女王を中心にヒラアシクサアリに攻撃を行わない安全なワーカー100匹以上が集う寄生コロニーが出来上がる。
こうなればヒラアシクサアリ新女王にとっては理想的な環境だ。
すぐに産卵を開始しものすごい勢いで卵塊は大きくなった。
産卵を始めたタイミング、産卵数ともに今まで飼育してきたヒラアシクサアリの比ではない。
状況さえうまく作ってあげられればしっかりと応えてくれるヒラアシクサアリ。
このまま颯爽とコロニー化を遂げてくれるのか注目だ。