チクシトゲアリの幼虫が吐き出す糸
現在我が家ではチクシトゲアリを飼育している。
2021年2月に採集した単独越冬女王を一から育てているものだ。
おそらく2020年の晩夏に飛んだであろうこの女王の飼育はいろいろな試行錯誤を経て何とか形になってきたが、一つ注目すべき点がある。
飼育巣内でコロニーが居座る場所の周辺で、飼育巣側面と天板のポリカーボネートが曇っているのだ。
もちろんアリのコロニーを長く飼育していれば飼育巣内は汚れていくものだが、どうもこのチクシトゲアリの飼育巣内の曇り方は他のアリの場合とは違う…
「汚れている」というよりは「何かが貼り付いている」というような雰囲気なのだ。
この「トゲアリの仲間」「何かが貼り付いている」という条件でとある記憶が引き出される。
南西諸島に生息するクロトゲアリというアリは幼虫が吐き出す糸で草の葉を繋ぎ合わせて巣を作る習性を持つ。
これ自体は比較的知られたクロトゲアリの特徴的な生態なのだが、確か…チクシトゲアリにも何か書いてあったな…
日本産アリ類図鑑を読み返すとチクシトゲアリの項に「枯枝内などに営巣するが、幼虫が吐き出す糸で巣を作る行動も確認されている」旨の記載があった。
やっぱり…
チクシトゲアリはクロトゲアリのように幼虫の糸での巣作りに特化してはいないものの、メインとなる枯枝内営巣に加えてサブアビリティ的に幼虫の吐き出す糸を利用する能力も持っているということなのだろう。
ちなみに、チクシトゲアリはクロトゲアリと同じマルトゲアリ亜属である。
つまり、我が家のチクシトゲアリの飼育巣内で見られる壁面と天板の曇りは幼虫の吐き出す糸を使ってアリ達が何かDIY(眩しいので光を遮る、ポリカーボネートのツルツルの壁面に違和感を感じて取り敢えず糸を貼り付けてみているなど)をした痕跡なのではないだろうか。
自然下のチクシトゲアリが実際に幼虫の糸をどのように使っているのかは分からないが、そのサブアビリティ的な行動を飼育下で観察出来たのはとても貴重なのだと思う。
試行錯誤を繰り返しながら四苦八苦で育ててきたチクシトゲアリ。
たまには良いものを見せてくれるじゃないか。